「ど」に寄せる想い・・・心優しく、目の前のあなたに捧げたい。ひとの心にそっとよりそう、ささやかな応援歌。

手の下の風景

2011年1月10日 11:24

わたしの手の下を流れて行ったのは何か
故里の山に向かって差しのべた手の下を
母の乳房のなつかしさに
父のたくましい不在に
心やすらかな恋の破れに
わたしの突き放した右の手の下を
何かが流れて行ったのだ
何かが流れて行ったのだろうか
眼前の空間を斜めに切った男のように白い手のしたは
ふさふさしたうぶ毛の下から
ためらうような透明色だ
手の長さを超え
心の深みを超え
不思議な空間がこの手の下にあった
ここから
その日まで
そのすべてがわたしであった
そのすべてがわたしであっただろうか
いまは力うせたわたしの手の下に
わたしは流れの残したせせらぎを聞く
流れぬ水は汚辱を呼ぶが
めまいのする静寂は
わたしを足もとから溶かしはじめる
そして
肩根から手を追い見ると
一種醜悪な無限がつづいていた

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

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