「ど」に寄せる想い・・・心優しく、目の前のあなたに捧げたい。ひとの心にそっとよりそう、ささやかな応援歌。
1983年2月10日 20:49
創刊号 山名 太郎
「ど」は「土」
地平へ駆けおりる大地
心鋤きほのお播種
手にまめ肩ににく足に根
全身についた土の匂い
「ど」は「怒」
怒髪天を衝き怒涛ほえ
ぼくらの怒り
ふたつの敵にむけた
決意
「ど」はおおゆみの「弩」
いきどおりを扇状にしならせ
ことば矢と燃え
彼奴の胸をつぶす
ぼくらのよりあわせた力
「ど」はどどどどどどの「ど」
前進するぼくとみんなの足音
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一葉詩誌 ど
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1983年3月20日 20:49
第2号 山名 太郎
たとえば三十年前の雨の日
野良をゆく子どもたちは
黒っぽい傘の下で
隊列には無頓着に
よく動く黒い目と
おどるようなくちびると
粉をふいた紅い頬で
「少年」を主張していた
雨の日は暗く
しかしそれは遠い産屋にも似て
たしかに少年を育むものがあった
真夏
おばちゃんおみずちょうだい
通りすがりのわら屋根にとびこんだ
少女たちの声が聞こえる
そしていまも雨
せまくなった田畑のあいだを
子どもたちがゆく
イエロウアンドレッドトライアングルひとすじ
白っぽく建てこんだ家いえの前を
無言の子どもたち
三十年を一気にスピードアップし
列車は迅る
わたしは老いをましつつ
さらに「革命」を思っていた
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一葉詩誌 ど
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1983年4月10日 20:48
第3号 かつら こゆき
あなたのあたたかみが
ねいきとともにしみこんでくる よる
わたしは人類の母の系譜をかんがえている
あなたとの性器を擦過させるいとなみのあと
わたしの産道を四人のこどもがとおった
ひとりは胎児のままで
三人は嬰児として
それぞれのいたみをきざみこんで
わたしの中の母をそだてながら
壁面に大書されたAVE MARIA
明朝活字のようなつめたさが
フラッシュのむこうから突きさしてくる
あたらしいいのちがもうやってこないはずの
わたしのいま
あくなき母はしかしあなたを孕みはじめている
すでにその胎動が感じられ
あなたのもたらす陣痛さえ予測できる
そして ぎりぎりと門をでてゆく
あなたとわたしの苦悶
あなたを産みおえたとき
わたしの中の母はさらに大きくなって
人類を孕んでいくのだろうか
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一葉詩誌 ど
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1983年5月10日 20:47
第4号 かつら こゆき
五月のかぜとひかりが
へやいっぱいにとびこんで
いつになくさわやかなわたしのめざめ
ベッドのふちにかけ
かがみのむこうの少女とあいさつかわす
むねとこしから下のまぶしい白さに
ナルキッソスの恋を感じて
るる
るるる
はじらいながら咲きあらわれてくる
やさしいいぐさのようなかげりのなかの
白いれんげ草
少女たちがつみのこしていったたからもの
ひろがる草原と遠く黒い山やま
十歳のわたし
かがみよかがみ
わたしになにを見せるのか
白い馬っこのせなかのうえ
白むくおおったおしろいの顔
はじめて会いますあなたの里へ
ゆらゆらゆらゆらおよめいり
なみだでこした十九歳
お母さん雪が降ったの つもっています
瀬戸内で育ったわたしの
子どものようなおどろき
あたたかいふるさとへ
電話の声がはねる
母がわたしを産んだ
その二十三歳
五月
わたしの手のなかに
いまもえているほのお
白いものたちのいのちのさきぶれ
さまざまなみどりにいろどられた山やまの
かげをうつして
それはあおみをおびた白炎になり
わたしのなかのはげしい血のうごきにゆれて
あかみをおびた白炎になり―――
もえている
白いわたし
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1983年6月20日 20:45
第6号 なかむら まさし
1.あなたがむねふくませてくれたとき
あなたがおむつかえてくれたとき
あなたがほおずりくれたとき
あなたがやさしくだきしめてくれたとき
あなたがさちことささやいてくれたとき
おかあさん おかあさん
さちこはおかあさんといいたかった
2.あなたがおもゆたべさせてくれたとき
あなたがおふろいれてくれたとき
あなたがそいねしてくれたとき
あなたがしずかにてをひいてくれたとき
あなたがさちことほほえんでくれたとき
おかあさん おかあさん
さちこはおかあさんといいたかった
3.だけどあなたはいってしまった
あなたがとうさんとのあいにくるしんでいるとき
あなたがさちこのゆくすえおもいなやんでいるとき
あなたがいきをつめるろーぷにもがいているとき
さちこはなにもしらず なにもできず―――
おかあさん おかあさん
そういってあげたらあなたはがんばれたのに
4.いつもあかるかった おかあさん
さちこにゆめかたってくれた おかあさん
あなたのあたたかいむねにさちこはねむる
あなたのすんだこもりうたさちこはきく
おかあさん おかあさん
あなたのいるそらにむかってにじかけよう
さちこのねがいとどくように
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一葉詩誌 ど
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1983年6月30日 20:43
第7号 かつら こゆき
子宮にかえろうとした
ちいさな女の子がいたのを
あなたは知っていますか
産道をやっとのことでくぐりぬけ
さあ元気のいいうぶ声――
呑みこんで
きっとして子宮に戻ろうとした女の子
回転軸1形成期から胎児期第3段階へ
その苛酷な逆行を決意させたものは
いったい何だったのか
―――――さきこが見たのは闇の色
地球のはじまりのはるか以前の
巨大な沈黙
見てしまって彼女にことばはない
さきこが聴いたのはアンドロメダ星雲のためいき
90万光年かなたとのラポール
感じてしまって彼女は話すことをやめた
とげとげしい脳波をよく見てください
落雷にもひとしい電位差のなかに
人間になることを拒否しようとした
小さくかたくなな意志がよみとれませんか
アクスで消そうとしても
ホルマリン槽に浮かんでいるその人を
ただちに連想できませんか
のけぞるかあさん
激しく動いているとうさん
美しい夜のやさしい心とたくましい体のまじわり
神秘の液体が動いて流れてとどまって
さきこのいのちのはじまりが演じられていく
その一部始終を自分で見た
記憶が
彼女に
ある
しかしさきこ
太陽を西から昇らせるようなことはもうやめよう
あなたの物語はあまりにも哀しいから
さきこは十分かわいいから
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