きのうの雲がきょうもまだ空にある
二日を休息し
それでも癒えぬ黄道の迷いが
うす墨の空から落ちてきて
印象派風の絵を再現する
生徒たちはいま
わたくしから遠く離れた水口におり
秋のみずあそびに退屈している
もうそれははっきり目に見えることで
あきのりやひろゆきのてれくさそうな笑顔
ふっと寂しくなったり
時には彼らを超えた虚無の舞台になる
軽飛行機が目路のはしをつと過ぎった
あのあたりは雲も強情で
はねかえる爆音も
かたかたと虚しい
顔を向ける必要はない
わたくしの興味をつなぐために人は飛んだりしないのだ
チャチャーン チャチャーン
わたくしに二時がやってくる
白菊の横の二時
(時と花との接点から
わたくしのよしこがやってくる)
《藤学園?富士だと思ってた。クリスチャンの・・・》
たしかにあのときわたくしは明るく
脳波だってうっとりと乱れていたのだ
《そう。でもあたいは違うのよ。洗礼受けていない》
おどけてはならないことだから
やさしいあいつはまがおで語った
おおきな瞳いっぱいに札幌のアカシアを映し
わたくしはあんなきれいな眼に会ったことがなかったから
しあわせの型をとりちがえたのだ
《中村くん、どうすたらよかっぺ》
こんな楽しいことばをわたくしにくれて
よしこはきながに待つつもりだったのだ
育ててゆかねばならぬものを
植物園のエルムに見いだし
驚いて自己韜晦のおしゃべりを始めたのではなかったか
(アイヌラックルはハルニレ姫の子
わたしは姫に落ちる雷神だ)
それは前後入り乱れたわたくしに都合のいいひとつの潤色にすぎ
ぬけれど
けれど
《雲が動いているね。あまりのろいから青空ごと横すべり。あ、か
らすちゃんが笑った!》
こんな不安な空の下では
あこがれは希薄になり
その丘のむこうがもはや信じられぬくらいだ。
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修羅
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北海の歌 -代志子に-