「ど」に寄せる想い・・・心優しく、目の前のあなたに捧げたい。ひとの心にそっとよりそう、ささやかな応援歌。

作品第十八番

2011年1月20日 11:28

汽車の中は汚れた水晶のようで
寒さにさえ底意ある汚辱が感じられる。
クリーム色のかまぼこ穹から
油煙は神秘のように降りてきて
 (窓外の夜がちぎれてとんだのだ)
一点の黒
それにも物語があると小さな表情をたしかめる。
石部 風はなく
ヒューム管が今は灰色に気圏の底
明日にはあのぐわおぐわおとうごめく都市の下で
おびただしい意識の残滓をくぐらせているにちがいない
 西口さんが黄色の脚を座席に投げている
 この位置からは腰から上が見えなくて
 あの脚につづく容貌は誰のだっていい
 もちろんよしこの面影を据えてもいいのだ
 それはたしかにむごい遊びで――
 いやわたくしにいちばん苦しい仕うち
 列車は揺れるのに蛍光灯は不動の退屈
新幹線軌道の下を抜け
わたくしを何倍かした距離で
人は衝突を避けているのだが
こんなに簡単な方策を
こころの世界に誰ももちこまない
(それはこころの純血を保つためだ
 だろうか?)
よしこよしこ
そろそろと疲労の影の濃くなる車室
まばらな人象はあるにはあるが
それは淡い靄につつまれたやすらぎで
わたくしのようにあざやかな裂かれかたはしていない
幾春別
そのなつかしい土地が
時と空間のカッター使いわたくしを截つ
(もっともひどい現実はおまえからのたよりなのに)
想い出として残して下さい
(ありふれた口吻などと思ってはいけない)
なるほど想い出は高架をつかった交錯だし
わたくしがきちがいにならぬための便法なのだ
けれどよしこ
いまのわたくしから
せいいっぱいの慕情や
鋼青色の洞察や
やわらかい感情のふるえのすべてを
かすめとってゆくおまえの
輝くばかりの豊かな貌を
どうしてきのうの箱にしまえるものか
(北海道に雪がきて
 わたくしの稚拙なエゴを埋めてくれればいい)

カテゴリー: 修羅 , 北海の歌 -代志子に-

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