「ど」に寄せる想い・・・心優しく、目の前のあなたに捧げたい。ひとの心にそっとよりそう、ささやかな応援歌。

category:「初期詩篇」

2011年1月11日 11:24

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

ふたりの夢

はじめての夜。
濡れて、
優しく、
あまずっぱく、
白いあなたの乳房が踊る。
濡れて、
わたしの心も濡れて、
ひとときの破滅にそっと触れる。

あなたがあなたであるように
わたしがわたしであるように
白百合咲く
二人の――そして二人だけの
なんとはなしの
夜の花園

2011年1月10日 11:24

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

手の下の風景

わたしの手の下を流れて行ったのは何か
故里の山に向かって差しのべた手の下を
母の乳房のなつかしさに
父のたくましい不在に
心やすらかな恋の破れに
わたしの突き放した右の手の下を
何かが流れて行ったのだ
何かが流れて行ったのだろうか
眼前の空間を斜めに切った男のように白い手のしたは
ふさふさしたうぶ毛の下から
ためらうような透明色だ
手の長さを超え
心の深みを超え
不思議な空間がこの手の下にあった
ここから
その日まで
そのすべてがわたしであった
そのすべてがわたしであっただろうか
いまは力うせたわたしの手の下に
わたしは流れの残したせせらぎを聞く
流れぬ水は汚辱を呼ぶが
めまいのする静寂は
わたしを足もとから溶かしはじめる
そして
肩根から手を追い見ると
一種醜悪な無限がつづいていた

2011年1月 9日 11:23

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

駅の向こうには何があるか
とある小さな田園の小さな駅に列車が停まったとき
わたしはふと のすたるぢあにも似た
なまあたたかい感情にとりまかれた
プラットフォームでもない
鉄路でもない
わたしの心を哀しくさせるのは
黒く 軽い 貨車でもない。
過去を追憶する流れ者のように
ひそやかな哀しみのくゆる窓際に
わたしはうすぐらく沈んでいた。

駅の向こうには何があるか
陽に汚れた街並を駅舎のあいだに眺めながら
本当は何を見ていたのだろう
わたしは ぽっかりあいた改札口の空白を
そのままそっくりひきいれたような心で
人影のない街を歩きだしていた。

山があり川があり 木々があり道があった
粛条とした一本道であった
それに沿うて低い家並が地平線までつづいていた
見知らぬ街の見知らぬ風景
地平線に限られた黒い風景を
わたしはしきりに思い求めていた。が、
気がつくとわたしは相変わらずうすやみの中にいるのだった。

駅の向こうには何があるか
そして地平線の向こうには。
つねにあたらしい疑問に圧倒されながら
動かぬ体を座席に埋め
わたしにはいらだたしい哀しみばかりのこっていた。
ふたたび 目にも心にも訪れることのない
行きずりの小さな駅のたたずまい
そしてその向こうに展べられたはてしない神秘。

列車ははなれ
いつもこんなふうに
わたしは永遠を失っていくのだ。

2011年1月 8日 11:22

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

笛を吹く女 -Junに-

静かな瞳をおとして笛をお吹きなさい
女の人よ
長く濡れた黒髪のリズム
あなたを包んだふるえてやまぬ遠いとおい喜びの旋律を
そしてまた月夜の寂しいひとり寝のために
ふたたび みたび よたび
そのつめたいまつげをおとし
両のゆびに紅みがかった力を踊らせ
女の人よ
それがあなたに予定されていた
なんというか このぼくらには解らない運命

ろふろふと
空かける音色がむしょうに哀しい夜ではありませんか
ろふろふと
つつましやかな羞恥を去って
笛は流れ 人は流れ
おそろしく大きな世界が
いまはひっそりと
勝ち誇った男のように
あなたに耳を澄ますのです

ああ 笛をお吹きなさい
女の人よ
ひろいひろい闇にむかって
へしあいへしあう夜にむかって
お吹きなさい笛をこまやかに
人目をへだてたこの夜が
あなたのよろこびであるように
おふきなさいおふきなさい 女の人よ
透明な笛の音の香りが
あなたの乳房にまつわりついて
それがあなたのよろこびであるように
それがあなたのよろこびであるように

ああ おんなのふるさとを流れきたこの音色に
あなたとぼくが抱きあうのだ

2011年1月 7日 11:22

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

新しい恋人に

わたしの前におまえがいるように
おまえの前にわたしがいるのだろうか
恋人よ
あたらしき恋人よ
わたしの知らないわたしの恋人
かろやかな未来の思い出の中に
うち沈んだ過去への予感のあいだに
なにかしらあたたかい
おまえの姿が心にうつる

おまえ あたらしき恋人
無意味な美しさのために
わたしはおまえを求めている
夢にしかけられた寓意の罠
強要された恋のうらぎり
いないおまえを信じよう
わたしの求めているおまえ

恋人よ
あたらしき恋人よ
わたしのあばきだされた胸に
美しくよごれたわたしの胸に
手をおけ おんな
死ぬだろうものが語りつぐ
はなやかな夢のかずかず
それをおまえが愛するように
恋人よ
ほほえみと眼差しがほしい。

ああ おまえ あたらしき恋人
わたしとおまえが叡智の深みで考えるために戻ろう
人の匂いも
おもわくのかげりもない
明るい深淵
その人目ない語らいの世界で
わたしはおまえに何をするだろう
わたしはおまえに何をしよう

すばらしいあたらしさでおまえは流れ込んで来い。

2011年1月 6日 11:21

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

笛を吹く少年

流れるような丘のはらっぱは
きんいろのいななきにみちている。
いななき
馬は駆け
黒い巌にこしかけた少年のわたしが笛を吹いている。

まあ。
たゆとうしあわせに驚いてみせよう。
はとのようにちいさな少女に
はとのようにちいさなしあわせに
ひうろろう ひうろろう ぴああ
少年のわたしが輝きながら笛を吹いている。

――それから
わたしはなんと大きなものをなくしてしまったのだろう。

2011年1月 5日 11:21

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

うえたる少年に

おんなの膝はひとつの芸術である
母の胸にすがりつくように
おんなの膝にのって至妙の手ざわりを楽しもう
おどおどしたひとりぼっちの心は
なによりも美しいものに憧れている
いじましい欲望に満ちた日々の心は
なによりもひろいものに甘えたい と
そんなに苦しくされた少年に
わたしはこのおんなの膝を贈ろう

おんなの膝はまぎれもなくひとつの芸術である
ひかりのめろでぃを歌うおさなごに手をさしのべ
ごくまれなさびしくやさしい人格を育てた
おんなの膝に
おまえの夢とおまえの現在をくみたてよう
あああ まろやかな しめやかな あたたかみに濡れた
おんなの膝に
うっとりと こうごうしく 哀しみを呑んだまま
おまえはまつわりついて行け

2011年1月 4日 11:20

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇


忘れの台座に
こころの谷間をそよいできた
女の物語はすでにない

少しのことばと
手にあまるこころの嘆きで
わたしを射た眼差しは
歩みの前光芒の奥に
かげ淡く沈みこんで
安らかにすぎる焦燥を
わたしの秋に流してみせた

天への登り路に咲きこぼれる花であったのか
仔犬を抱くように
わたしを抱きとめた
山百合の気まぐれ
女のにほひが
わたしの現実を枠づける


雨は冷たく
わたしの孤独な物語が復活しようとしていた

2011年1月 3日 11:20

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

山の泉に手をとめて
わたしはひとすじに女を思っていた
つめたい玉のような水が
したしたとわたしの手をこぼれおちた
わたしの女はいつまでも美しい
わたしの女はしかし誰なのか
昨日からきょうへかけて
きょうから明日へかけて
やわらかく濡れた手の甲のうぶ毛のようなしあわせを
子どものようにそわそわしながら
わたしはここで待っている
永遠のおくそこに澄みきったこの泉から
りろりろと涌きでてくるのは
ひたむきな願いをこめたぶるうだいあの水です
たれも知らない泉のむこうから
やがて 水の精ともいうわたしの女がやってくるのだ
がらすのような緑の樹陰に
わたしはふるえる手をけんめいにおさえながら
よろこばしい錯覚を待っていた。

2011年1月 2日 11:20

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

雪 人 形

山を越え
山を越え
国境の雪山頂き
足さきひろがる雪を掴んで
小さな人形作りました。
あなたの顔
眼も鼻もない雪の顔
ただまあるくて
かるくかあいい雪の人形
口よせて
冷たいあなたの感触
そこにありました。

まっしろなあなた
口の下からとろとろと
あなたのときめきのような
あなたのにほひのような
雪の水が
くるおしいくちの下
小さな二つの手の上をう    
ちちろと溶けて流れました。

空 濃青
哀しみがふるえています
山 ゆるやかな白
優しさが眠っています
下界 遠い無関心
ぼくあそこにいない
そしてここにいるぼくは
あなたの雪人形に語りかけ
ときどきは空を見上げているのです
ときどきは空を見上げているのです

2011年1月 1日 11:19

カテゴリー: 修羅 , 初期詩篇

女自殺者の腿の白さについて

おれは
白い表情をもてあましながら
雪原を歩いていた
生活は遅く
輝きを失った日々の中を
いま すぴいどに追いつめられた

幹線列
車が迅る
投石置石爆破
おれがおもむくのはそのためではない
脱線転覆爆発
おれののぞみのすべて
つうとんからあの現代をあの日に遡ってとめること
だが
一輪の花しかもたぬおれは
いちばんやさしい武器をぶっつける
雪をけ立てて 走りより
力まかせに――
はらはらと
赤いはなびらは散った




おまえがそのときしたように
いのちあるはなびらは
すぴいどのむこうへ消えた

するするとおまえの去っていく気配を感じながら
おれにできたのはなにか
絶望もなく
失意もなく
ひとつの意味も摘みとって
現代のすぴいどに慕いよったおまえの死
同じ雪降る日
ひらりと舞ったひとときの感傷が
おまえのすがたを霧にした

中空に腿の白さがひらめいたという――

それから女よ
二十二歳の涸いた意識には
すべてが白くぬめぬめと映る
成熟をいとうかたくなな意志は
問いかけの放棄を叫んで泥酔していた
その
原始な脳髄の中へ
日にいめいじを強要してくる
腿の白さのおまえ
銀色の陶酔は降りつもり
白い沈黙にうちのめされたおれの
むすぼれぬ涙にかえて
ひとすじ
泣かなかったおまえの
ただよう腿の白みから
いま金剛の涙が下る
涙が下る。
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